樋口講演要旨

「激動の20世紀と亡命ユダヤ人音楽家-レオ・シロタを中心に」 

 樋口隆一

 いまヨーロッパをめざして、シリアなどから多数の難民が殺到しています。世界の歴史を顧みるとこういうことは珍しくはありません。アフリカでは日常茶飯事ですし、ナチスが政権を取った1933年以降のドイツからも多数のユダヤ人たちが、活路を求めて世界に散っていきました。その数は30数万人。そして逃げ遅れた600万人が命を失ったのです。

 この大規模な離散(ディアスポラ)は、文化の拡散をも意味していました。20世紀後半における科学や芸術におけるアメリカの台頭、南米出身の音楽家の世界的活躍は、各地でのユダヤ人の活躍が要因のひとつとなりました。日本でも、作曲家のプリングスハイム、指揮者のローゼンシュトック、グルリット、ピアニストのシロタやクロイツァーといった第1級の音楽家が、演奏と教育に活躍し、日本の水準を飛躍的に高めてくれたことを忘れてはいけません。

 しかし、こんなに優秀ユダヤ人たちが、なぜ迫害を受けたのでしょうか。伝統的にはユダヤ教とキリスト教をめぐる宗教的な要因、20世紀に関しては、経済的・政治的な要因が考えられます。どれも私たち日本人にはわかりにくいのですが、だからこそ混迷する世界を考えるうえで知る必要があるのではないでしょうか。この講演では、(1)古代から始まる反ユダヤ主義と迫害の歴史、(2)ロシア、ウクライナでのポグロム(ユダヤ人虐殺)、3)ナチス政権下「ニュルンベルク法」によるユダヤ人市民権剥奪、(4)戦前日本のユダヤ政策、(5)日本で活躍した亡命音楽家、(6)映画「シロタ家の20世紀」の背景、について考えたいと思います。

 

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